【ゴールデングランプリ2019から世界陸上ドーハへ②】

cbdf99885c3d4268debe

【ゴールデングランプリ2019から世界陸上ドーハへ②】
TEXT by 寺田辰朗
ハイレベルの男子100m。桐生がガトリンと0.01秒差の激闘
小池がサブ種目で10秒04の日本歴代7位

 男子100mのレベルが高かった。
 J・ガトリン、C・バレル、K・ウィリアムズと9秒台の米国3選手がいるなかで、日本記録(9秒98)を持つ桐生祥秀(日本生命)がガトリンと接戦を展開。ガトリン10秒00(+1.7)、桐生10秒01と0.01秒差でフィニッシュになだれ込んだ。
 4位の小池祐貴(住友電工)も10秒04と、同学年コンビが東京五輪標準記録の10秒05を突破。世界陸上ドーハの標準記録(10秒10)突破は、山縣亮太(セイコー)、桐生、小池の3人となった。

●ゴールデングランプリ5戦全勝のガトリンに善戦
「一瞬だけ自分が前に出たかな、と思いましたが、中盤からずっとガトリン選手がいるな、とわかっていました。フィニッシュしたときは負けたかな、と」
 客観的に見れば善戦だったが、桐生にとっては悔しい0.01秒、世界との差を痛感した0.01秒だった。
「ここで勝てたら、ガトリン選手に勝った選手になれたんです。世界で死闘を繰り返してきた選手と、決勝を走ったことのない自分との差が現れた0.01秒でした」
 ゴールデングランプリにおけるガトリンと日本人トップとの差は、以下のように推移してきている。
14年 ガトリン10秒02 桐生10秒46(-3.5)
16年 ガトリン10秒02 山縣10秒21(-0.4)
17年 ガトリン10秒28 ケンブリッジ飛鳥10秒31(-1.2)
18年 ガトリン10秒06 山縣10秒13(-0.7)
 ガトリンも毎回、同じ状態で臨んでいるわけではないし、今大会のレース後には来季限りでの引退も示唆している。だがガトリンが、日本勢に立ちはだかり、世界との差を示してきたのは確かだろう。
「でも負けたことで向上心が上がったと考えないと、今日のレースが無駄になってしまいます」と桐生。「ここからガトリン選手も上げて行くと思いますが、僕も上げていきます。次の対戦でまた差がわかると思います」
 ガトリンは世界陸上前回優勝者枠で、すでに9月開幕の世界陸上ドーハ出場資格を持っている。桐生は6月の日本選手権を勝ち抜かなければいけないが、例年よりその確率は大きいだろう。
 東京五輪標準記録突破という収穫もあった。桐生陣営は今大会と、2週間後の布勢スプリント(鳥取)のどちらかで破りたいと考えていた。
「目標の1つは達成できました。切れない状況が続くと焦りも出てしまうので、次のレースからそこを気にしなくてすみます」
 気持ちに余裕を持って臨んでいけることは、桐生にとってかなり大きいことなのだ。

●最速男の桐生に備わってきた“強さ”
 4月のアジア選手権優勝に続き、ゴールデングランプリでの0.01秒差の2位。これまで速さはあったが、大舞台での勝負強さがなかった桐生が、今季はひと味もふた味も違ってきている。
 好調の理由を問われた桐生は、次のように答えた。
「メンタル的なところも強化してきましたが、冬の練習が自信になっています。これだけ走ってきたから後半も落ちないだろう、と。ケガなく来られているのも、それが理由かもしれません」
 今大会でもスタートが、完璧に決められなかった。リアクション・タイム自体は山縣に次いで2番目に早かったが、桐生自身は「バーンと遅れた」と感じた。おそらく1・2歩目の動きが良くなかったのだろう。
「以前はそれで焦っていましたが、中盤から後半を思ったように走ることができました。あれだけ走ってきたんだから、絶対にやってやろう、と思うことができています。スタートラインに立ったときも、どの大会でもそうですが、中盤からの持ち味をどうやって生かすかということだけを考えています」
 不安がよぎると走りに影響が出てしまうが、自信やゆとりを持てているときの桐生は本当に強い。結果的に終盤もスピードを維持できる。
 9秒98の日本記録を出したときも終盤の失速が極めて小さかった。その走りを国際大会や日本選手権などで再現することが課題だったが、今季の桐生はそれがどの大会でもできるようになっている。
「中盤の加速は、走りを変えるというより気持ちを変えられれば、もう少し上げられそうです。それができれば後半も、そのノリで走れると思う」
 2017年、18年と日本選手権で敗れ、個人種目の代表入りを逃してきた桐生だが、今季は同じ轍は踏まないはずだ。
 仮に世界陸上に出場したとして、ゴールデングランプリの走りを再現できれば準決勝には間違いなく進む。ガトリンと対決する確率は3分の一以上だ。そのときが桐生の、本当の強さを見せる場面になる。

●桐生と小池。同学年コンビの不思議な縁
 小池の自己記録は10秒17だった。それを0.13秒も更新して、世界陸上ドーハだけでなく、東京五輪標準記録も破ってみせた。
「冬期練習がしっかりできて、体が一段階強くなりました。エンジンが大きくなって、その分、余分な力を使わずに走ることができます。体幹周りをしっかり使えるようになりましたね。体重も2kg増えてもブレーキにならず、(地面からの)反力に変えられています。自己新に大きな驚きはありません」
 3月の米国遠征でも、追い風参考ながら10秒09と10秒07で走り、10秒0台のスピードは体感していた。
 そして小池の本職はあくまでも200m。「(100mはサブ種目で)タイムはそんなに意識していなかった」と、リラックスできていた。
 今後はまだ破っていない200mの標準記録を目指すが、今の小池なら20秒40はまったく問題なさそうだ。
 日本選手権は2種目に出場する予定で、「ピーキングをしっかりすれば100mも戦える」と感じている。ただ、世界陸上に関しては200mに絞って決勝進出を目標とする。
 小池は4年前の2015年に、ゴールデングランプリに初出場した。前年の世界ジュニア(現U20世界陸上)の200mで4位に入っていたが、そのときに出場した種目は100m。慶大の先輩の山縣が欠場することになり、レーンに空きが生じたため出場することになった。
 ちなみに世界ジュニアでは同学年の桐生が100mで銅メダルを取り、2走を桐生、3走を小池が走った4×100 mリレーでは銀メダルを獲得した。
 だが4年前のゴールデングランプリの小池は、10秒43の6位という成績は当時としては悪くなかったが、その後に結びつけられなかった。世界ジュニアの次の目標を上手く見つけることができず、大学2・3年と伸び悩んだのだ。大学1年時の14年に出した200mの自己記録を更新したのは、4年時に福井で行われた日本インカレ。桐生が100mで日本新(4年ぶりの自己新でもある)を出したのと同じ大会だった。
 そこから小池の快進撃が始まり、昨年の200mアジア大会で金メダルを取り、そして今年、100mの10秒0台を桐生と同じレースで出した。
 2人そろって世界陸上代表入りが実現すれば、それぞれの種目で決勝進出を狙っていく。4×100 mリレーでバトンをつなぐ可能性もあるが、狙うのは世界ジュニアより上の金メダルだ。

写真提供:フォート・キシモト

スポンサーリンク
レクタングル(大)
レクタングル(大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
レクタングル(大)