【ゴールデングランプリ2019から世界陸上ドーハへ①】

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【ゴールデングランプリ2019から世界陸上ドーハへ①】
TEXT by 寺田辰朗
まさかの世界リレー失格から1週間
日本の4×100mリレーが底力アップを示した38秒00

 ゴールデングランプリの男子4×100 mリレーの日本は38秒00で、9秒台選手で固めた米国を圧倒した。1走から多田修平(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、小池祐貴(住友電工)、桐生祥秀(日本生命)と、1週間前の世界リレー2019横浜で失格(3・4走のバトンパスでミス)したときと同じメンバー。
 各選手は1時間半前の100mで、桐生が10秒01(+1.7)で2位、小池が10秒04の4位、山縣が10秒11の5位、多田が10秒12の6位と、全力で1本走っていた。この日は風が強く、周回種目の記録が軒並み低調となる気象条件。37秒台こそ出せなかったものの、米国を0秒73引き離した日本の強さは際立っていた。
 世界リレーの失格から1週間。日本の4×100 mリレーは底力を全世界にアピールした。

●小池と桐生が直前に話し合い
 入場した4×100 mリレー選手たちが気にするのは、まずは風である。その風が、今年のヤンマースタジアム長居は珍しく強かった。
 桐生はその状況を見て、「詰まるかもしれないけど、こうなるかもしれないと、小池君と話し合った」と振り返った。
 2人はマークの位置(桐生がスタートするときの、前走者の小池が通過する位置)を、世界リレーより0.5足長(約15cm)手前にした。
 風が強かったからということもあったが、1週間前の失敗で2人がより丁寧に、バトンパスの確認をした結果である。
 小池は世界リレーの失敗を「ショックが大きかった。(気持ちを)前に向けるため、前向きな行動を起こした」と言う。
「練習ではいつも上手く渡っていたのですが、トラブルが起こるかもしれないという心の準備をしました。海外のリレーの動画を見て、こういうことがあったら落とす、これなら失敗しても落とさない、という失敗例をいくつも見ました」
 桐生と小池の直前の話し合いや、小池が動画をいくつも見たことは、リスク回避の可能性を少し大きくしただけかもしれない。仮にしなかったとしても、バトンはしっかり渡っていた可能性はあるが、とにもかくにもゴールデングランプリでは、しっかりと3・4走もしっかりとバトンが渡った。
 その瞬間、スタンドに歓声が起こった。小池は「めちゃくちゃ聞こえましたね。恥ずかしかった」と苦笑いをする。
 リオ五輪で銀メダルを取って以降、日本の4×100 mリレーは国民的な注目を集めている。プレッシャーではあるが、東京五輪で金メダルを目指す以上、避けられないことではある。

●握り損ねても受け手はバトンを探さない
 1走の多田と2走の山縣は、マークの位置を世界リレーと変えていないが、山縣と3走の小池は変更した。「100mで小池が走れていたことと、向かい風の影響も考えて1足(30cm)か1足半(45cm)縮めました」と山縣。
 世界リレーでは小池が思い切り出てスピードに乗ることはできたが、山縣がギリギリでバトンを渡していた。小池のバトンを持つ位置が予定よりも前の方になってしまい、それも3・4走のバトンミスにつながった。
 ゴールデングランプリでは1・2走でちょっとしたミスがあった。山縣がバトンでなく、多田の手をつかんでしまったのだ。
「危なかったのですが、余裕はありました。2日前のミーティングでも、手をつかんでしまったらどうするかを話し合っていたんです。握ってしまった場合、渡した方は自分の手を抜こうとしますし、受け手はバトンを探そうと後ろに伸ばした手を動かしてしまいます。そういうときに受け手はバトンを探さず固定して、渡す方が責任を持って入れるようにと確認しました」
 前述のように周回種目は風の影響で、記録は良くなかった。日本も目標としていた「38秒を切って、さらにできるだけ37秒中盤に持っていく」(土江コーチ)という点は達成できなかったが、山縣は「僕と多田君のところ、僕と小池君のところはまだ縮められる余裕がありました」と言う。
 つまり、ノビしろが十分にあった。
 山縣の「(38秒00は)まずまずのタイム」という言葉が、選手たちの実感だろう。

●大阪世界陸上の38秒03を上回った意味
 ゴールデングランプリの会場となったヤンマースタジアム長居は、12年前の2007年に世界陸上大阪大会が行われた競技場だ。その大会で塚原直貴、末續慎吾、高平慎士、朝原宣治の日本は38秒03と、当時のアジア新をマークして5位に入賞。翌年の北京五輪の銀メダルにつなげていった。
 各国のレベルが高く4位までが37秒台を出した大会だったが、コンディションも良かった。メンバーも当時としては、“この4人しかいない”と考えられた顔ぶれで、走順も固定。38秒03は当時としては、考え得る最高のタイムだった。
 そのタイムを今の日本は、東京五輪出場権獲得のために37秒台は最低限出したいと考えていたが、ある意味走順のバリエーションを増やすために組んだメンバーで超えてしまう。
 小池が今回の日本が置かれた状況を、わかりやすく説明している。
「1時間半前に4人全員が、100mを思い切り走っています。風もあったし(体感)気温も少し低かった。(マークの位置を詰めて)全体的に安全バトンでした」
 環境的な部分は人為的にはどうしようもないが、前週のバトンミスを受けて、確実にバトンをつながなければいけない雰囲気に支配されていたのは事実だ。山縣も話していたように、バトンパスをもう少し攻めてタイムを短縮することはできるだろう。
 小池は自身の走りについても「コーナーワークはもっと行ける」と感じている。「200mmと3走のカーブは違うもの。3走の練習をしっかり集中して行って、リレーにもっと貢献したい」
 世界で一番のバトンパスと言われている日本だが、さらに細かい点を確実に行い、選手たちの意識も上がっている。世界リレーの失敗から1週間後のタイミングで出した38秒00は、ベストメンバーで臨む世界陸上ドーハで37秒60の日本記録(アジア記録)を更新する可能性があることを示していた。

写真提供:フォート・キシモト

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